K-36DM 射出座席

「自力でコックピットから飛び出す。」これこそ、墜落する運命にある戦闘機から命を守る唯一の方法でした。しかし脱出後、尾翼に激突死するという例が後を絶たず、戦闘機が高速化すると共に脱出後の致死率も増加の一途をたどることとなります。
そこで登場したのが射出座席です。初期の頃の射出座席は火薬を炸裂させることにより座席を尾翼より後ろに吹き飛ばすという物が誕生。第2次世界大戦後の戦闘機には射出座席が標準装備されるようになりました。

現代戦闘機の射出座席は高度ゼロ、速度ゼロでも安全にパラシュート傘下高度までロケットモーターにより上昇する、いわゆるゼロ・ゼロ射出座席が標準となっていますが、その中でもSu-27やMiG-29に装備されているズヴェズダ設計局製K-36射出座席は疑いなく世界で最も優秀な射出座席の一つです。

K-36DMの射出可能条件は最大でマッハ3、高度24000メートル以内と言われており、F-15やF-16に装備されているACESII射出座席は亜音速以内での射出しかサポートしていないことからも、いかに優れた射出座席かが分かります。通常、600Km/h以上もの高速で生身の人間が放り出された場合、良くて全身骨折、悪ければ用意に死に至る致命傷を負うことになりますが、K-36DMは対気速度800Km/h以上での脱出の場合、ウィンドウブラストディフレクター(風圧防御板)が展開し、気流が直接パイロットに受けないよう整流し高速時の風圧を防ます。また超音速の場合は意図的に衝撃波を作り出すことによってパイロットを保護します。

K-36DMは状態を制御する機能を持っており、座席を最適な方向へと回転させることによって膝元が前方を向くように制御され、半分寝そべるような姿勢になります。ちなみにウィンドウブラストディフレクターは膝元にあります。

射出座席は下方向へ15Gもの力がパイロットに負担としてのしかかるため、首や背骨を痛めてしまい機能障害を残してしまう可能性があります。瞬発的に脱出するためにはどうしても大きなGが必要であるためこれはK-36DMに限らず他の射出座席にも存在する共通の問題です。そのため頭や手足を最適な位置へと拘束してダメージを受けないようにします。当然身動きが取れなくなりますが、パラシュートの展開まで自動的に行われます。

百聞は一見にしかず。百万語を並べて語るよりも、実際に見たほうが理解しやすいと言う意味の言葉ですが、K-36DMはそのことわざ通りの実績を見せることになります。冷戦が緩和され、MiG-29やSu-27が旧西側諸国の権威有るエアショーに出展されるようになり、何度となく機動飛行展示が実施されました。残念なことにMiG-29やSu-27は何度も事故を起こし自身の信頼性が低いことを実証してしまったのですが、そのたびにK-36DM射出座席はパイロットを安全に脱出させたのです。
権威有る国際エアショーで各国の航空軍事関連者が見ている中、戦闘機の墜落と低空での射出実演。これほどK-36DMが優れた機能を持っているとアピールする場はありません。事実、各国の航空機メーカーの問い合わせがズヴェズダ設計局に殺到したと言われています。
Su-30墜落でも紹介している1999年6月のパリエアショーでは、機体が真上を向いているにも関わらず、K-36は二人のクルーを上方へと打ち出しました。

皮肉なことにロシア戦闘機が墜落する度にK-36はその優秀性を実証することになってしまったのです。




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